第3回 卒業論文レジュメ(2002/6/10)
「住宅改修と介護保険制度」 国際学部国際社会学科4年 佐藤美佐子
前回は、「家」においてもバリアフリーの実現が必要だということを述べ、方向性を絞った。特に「住宅改修」ということに焦点を当て、現状や課題について考えていくということにした。前回のレジュメは、テレビ(NHK 「クローズアップ現代」)で取り上げられたことをもとにして、介護保険制度における住宅改修の問題に軽く触れたものだった。
今回は、その問題や課題について進めていく前に、「住宅改修」そのものについて、
・そもそも何のために行うのか(なぜ必要なのか)
・どこをどのように改修するのか
・介護保険制度においてどのように規定されているのか
ということを調べてみることにした。
高齢者の心身状況と住宅改修の関わり
加齢に伴って身体機能は低下する。また、いろいろな疾患や障害を持つことも多くなる。
・老化:年齢とともに心身の機能が衰えていくこと
記憶力・注意力・学習能力などの低下、視力や聴力の低下、歯が弱くなる、骨折しや
すくなる、運動機能の低下など
・加齢に伴って、運動機能に障害が生じるようになる
筋力の低下、関節の可動性の低下、きめ細かい運動・動作の低下
・高齢になるにつれて、社会的役割が変化し、個人の意識や行動も変化する
記憶力の低下、内向的で受身的、用心深く慎重になる、自己防衛的、抑うつ的、心気的になりやすい、夜間行動、睡眠障害が増える傾向になる
・加齢に伴う心身の変化を起因とし、疾患にかかりやすくなる
介護保険制度における特定疾病(15疾病)
初老期における痴呆、脳血管疾患、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、シャイ・ドレーガー症候群、糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症、閉塞性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患、両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症、慢性関節リウマチ、後縦靭帯骨化症、脊柱管狭窄症、骨折を伴う骨粗鬆症、早老症
(以上は、東京商工会議所「福祉住環境コーディネーター検定 3級テキスト」を参考にまとめた。)
これらによって、日常生活に何らかの支障をきたすようになる。健康なうちは何とも思わずに生活していても、身体機能の変化によって家の中でも不都合を感じるようになる。その不都合なところをなくし、住み慣れた家で安全かつ快適に暮らしていくことができるようにすることが必要なのである。
→住環境整備の目的:「生活支援」「生活の利便性」「安全確保」
以下は、先に述べた検定試験のテキスト(p.7)からの抜粋である。
高齢になっても、身体機能が低下してきても住み続けることができ、自分の意思と努力で暮らしていくことが「自立した生活」の基本である。住宅をはじめとする住環境が、この「自立」を左右する面が大きい。また、高齢者に対して十分な配慮がなされた住宅なら、身体に不都合が生じても多少の改善や福祉用具を使うことで、以前の状態と同じかそれに近い生活が可能になる。介護が必要になった場合においても、人的介護を最小限にとどめることができる。
このようなことから、住環境整備、住宅改修に対する配慮が必要なのである。バリアフリーやユニバーサルデザインという考え方を、住環境整備においてももっと取り入れていくべきである。
住宅改修の種類
2000年4月に始まった介護保険制度では、住宅改修もサービスの一つとして盛り込まれている。よってここでは、介護保険が適用される住宅改修の種類を挙げることにする。
(1)手すりの取付け
(2)段差の解消
敷居を低くする工事、スロープを設置する工事、浴室の床のかさ上げ等
(3)滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更
居室においては畳敷から板製床材、ビニル系床材等への変更、浴室においては床材の滑りにくいものへの変更、通路面においては滑りにくい舗装材への変更等
(4)引き戸等への扉の取替え
開き戸を引き戸、折戸、アコーディオンカーテン等に取り替えるといった扉全体の取替えのほか、ドアノブの変更、戸車の設置等
(5)洋式便器等への便器の取替え
和式便器を洋式便器に取り替える場合
(6)その他(1)から(5)の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修
(1)→手すりの取付けのための壁の下地補強
(2)→浴室の床の段差解消(浴室の床のかさ上げ)に伴う給排水設備工事
(3)→床材の変更のための下地の補修や根太の補強又は通路面の材料の変更のための路盤の整備
(4)→扉の取替えに伴う壁又は柱の改修工事
(5)→便器の取替えに伴う給排水設備工事(水洗化又は簡易水洗化に係るものを除く。)、便器の取替えに伴う床材の変更
なお、これらに関係していても住宅改修費の適用外というものもある。
参考:厚生大臣が定める居宅介護住宅改修費等の支給に係る住宅改修の種類
http://www1.mhlw.go.jp/topics/kaigo99_4/txt/d9-c.txt
(一部改正についてhttp://www1.mhlw.go.jp/topics/kaigo99_4/lafter_17/kaigo94.html)
介護保険の給付対象となる福祉用具及び住宅改修の取扱いについて
http://www1.mhlw.go.jp/topics/kaigo99_4/kaigo51.html
介護保険制度における住宅改修
介護保険制度に住宅改修が盛り込まれているということで、具体的にはどのように規定されているのか調べてみた。
この制度において、住宅改修は「居宅介護住宅改修費の支給」というサービスとして位置付けられている。これは、要介護者の自立支援、介護負担の軽減を目的として利用される。
具体的な内容・仕組み(条文等のポイントを簡単にまとめた)
・居宅介護住宅改修費の支給について
「介護保険法」http://www1.mhlw.go.jp/topics/kaigo99_4/kaigo6.html
第45条
居宅介護住宅改修費は、要介護の被保険者が決められた種類の改修を行ったときに支給される。
支給額は改修にかかった費用の9割(つまり、自己負担は1割。ただし、支給限度基準額まで)
・居宅介護住宅改修費の支給の申請について
「介護保険法施行規則」http://www1.mhlw.go.jp/topics/kaigo99_4/txt/d1.txt
第75条
支給を受けようとする人は、@改修の内容、場所、規模、改修を行った事業者の名前A改修にかかった費用、着工と完成の年月日、を記載した申請書を提出しなければならない。
申請書には、@領収証A介護支援専門員等の専門的な知識や経験を持った人が、住宅改修が必要と認められる理由を書いた書類B完成後の状態を確認できる書類、を添付しなければならない。
・支給限度基準額について
「居宅介護住宅改修費及び居宅支援住宅改修費の支給について」(通知)
支給限度基準額は20万円(要介護状態区分にかかわらず定額)。支給は一度だが、要支援及び要介護状態区分が3段階以上上がった場合は、もう一度20万円までの支給を受けることができる。
転居した場合にも、改めて20万円までの支給を受けることができる。
住宅改修の種類も含め、以上のようなことが法律その他で決められている。細かいことまで決まっているようには見えるが、実際に実施していくと不備があるということであり、そのために、住宅改修をめぐるトラブルが発生することになってしまったのである。
次回について
次回は、住宅改修をめぐるトラブルについて調べることにする。